ヌアー族―ナイル系一民族の生業形態と政治制度の調査記録
E.E.エヴァンズ=プリチャード , 向井 元子

文化人類学の古典的名著。粘り強い洞察に満ちていてとても面白い。アフリカのヌアー族に対するエスノグラフィー。1940年刊行。

  • 技術水準の低さ→社会的連帯の範囲が狭くなる→同じ村やキャンプの成員間の結びつきが精神的な意味で強化されている
  • 「技術とは、ある見方をすると、生態学的な過程である。つまり、人間の行為を自然の環境に適応させることである。もう一つ見方を変えると、物質文化は、社会関係の一部と考えることもできる。なぜなら、物は社会関係がそれに沿って動くチェーンだからである。したがって物質文化が単純であればあるほど、ひとつの物をとおして表現される諸関係は多様なものになる。」
  • 「人間は物質文化を生み出し、自らをそれに結びつけるのみならず、物質文化をとおして人間関係を構築し、かつ観るのである。」
  • 「ヌアーはごくわずかの種類の物しか持たず、その品数も少ない。そのため、少数の物が多様な関係を表現するメディアの役を担わねばならず、物の社会的価値は非常に増幅されており、その結果、しばしば儀礼的な機能を付与されることとなる。」
  • 「しかも、文化内容の貧しさのゆえに、社会的関係は他種類の物の鎖に沿って拡散することなく、少数の関心事へ焦点が限定されてしまう。こうしたことが、狭い地域内の、小さな親族集団における、結束力の強い小規模な関係形態を生み出したと考えられ、ここに単純な社会構造の存在が予測されるのである。」


社会に氾濫する物の数が少ないと、ひとつの物が担う社会的価値は増幅する。だからこそ、物に儀礼的な機能が付与されることもあったとエヴァンスはいう。多数のモノが氾濫する現在は、モノを通じて濃密な社会的関係を構築することは難しくなってしまったのだろうか。モノを通じて立ち現れてくるものは希薄な社会関係であり、だからこそ「真の豊かさとは何か」なーんてうるさくいわれたりするのだろうか。