Paul Slovic, 1987, Perception of Risk, Science vol.27, pp.280-285. 要旨抽出

 リスク心理学のマイルストーン、記念碑的論文。

◆リスク心理学の目的
 1.災害に対する大衆の反応を理解し予測可能にする
 2.素人と専門家と政治家の間でリスク情報共有を促進し、リスク分析、政治的判断を助ける


◆心理学的実験パラダイムの構築
 1.方法→さまざまな災害について分類、心理物理学的測定、因子分析
 2.リスク認知を量的表象として、「認知地図」を描く
 3.a.現在のリスク度、b.要求するリスク度、c.要求する規制レベル、である災難を量的に評価する。


◆Starr(1969)の卓越性
 技術の(心理的)リスク測定の方法論確立。”How safe is safe enough?”という質問。社会は、リスクと利益の最適な均衡に到達すると結論づけた。
 1.リスクの受容=利益の三乗にに比例する
 2.自発的にリスクを受容した場合=非自発的にリスクを受容した場合の1000倍
また、「リスク」の概念が人により異なることが明らかに。
 1.専門家→リスクの大きさは、年間死亡者数と相関関係があると思考
 2.素人→リスクの大きさは、災害の特徴と相関関係があると思考


◆Paul Slovicの実験
 質問紙法と因子分析の結果、3要素が抽出された。これら要素が強ければ強いほど、人は嫌悪感を抱く。
1.恐ろしさ因子 (Dread factor)
=制御不能感、恐怖感、カタストロフィック、致命的可能性、リスク分配の不公平性
2.未知性因子 (Unknown factor)
=未知、新規、観察不能、実害の真相がわかるまで時間を要する場合(ex.BSE問題)
3.リスクにさらされる人数因子 


◆素人と専門家

  • 素人のリスク認知→ある災害が認知地図(上述した各因子を用いたプロット)のどこに配置されるかに強く影響を受ける。
  • 専門家のリスク認知は、各Factorに影響をあまり受けない→年間死亡者数と連動する


"signal potential"
 災難の心理的な重大さと影響の大きさは、部分的には、その出来事が何を予兆しているかによって決まる。つまり、些細な事故でも、それが潜在的な事故を予感させれば、人々は重大なリスクだと認識する。この際に、先述の「恐ろしさ因子」と「未知性因子」が大きく関わってくる。


スリーマイル島原発事故という転換契機
 死亡者数はゼロだったが、社会的影響(コスト)は甚大だった。つまり、これまでの専門家的リスク分析では評価不能なものがあることを示した。リスクが原発の使用利便性を凌駕し、原発の操業コストが跳ね上がり、他の科学技術推進にまで負の影響を及ぼした。この論文は、この事故をきっかけに着想された。


◆つまり
 高シグナル(先述の3因子)な事故の可能性を減らすことに、労力と金を投資するのが良い。小さな事故は、"signal potential"(予兆性)によって、莫大なコストを生じさせうる。今後、遺伝子技術は、UnknownかつDreadであるため、たとえ些細な事故であっても、莫大なコストを生じさせうるだろう。どのように人々に対して、リスクを(わかりやすく)定量化し、情報を与え、教化させられるのだろうか。

 最近ハマっている科学社会学的なコンテクストからリスク心理学を眺めると、非常に面白い。Dread factorに大きな影響を与える「リスク分配の不公平性」という要素に関しては、社会学Beckが提起した「リスクの分配」の問題群を想起した。


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