若林明雄(1993) パーソナリティ研究における”人間―状況論争”の動向 心理学研究、64、296-312 要旨抽出

 パーソナリティ研究における“人間ー状況論争(person-situation controversy1)”は、1970年代から80年代にかけて、アメリカを中心に展開された。この論争は、行動の決定因として内的要因と外的要因のいずれを重視するかという、パーソナリティ研究だけにとどまらない心理学の根本的な問題についての論争である。その過程では、相互作用論(interactionism)のような理論的立場が再検討されるなど、成果ともいうべきものが見られる一方、一部では不毛な論争も見受けられた。


 論争の端緒となったのはMischel(1968)である。彼は「特性によって人間の行動に時間と状況を超えた一貫性がある」とする立場を批判した。彼の立場を引き継いだ特性論的アプローチに対する批判は、状況主義(situationism)と名付けられた。Krahe(1992)によれば、状況主義とは主に以下のような考え方である。(a)行動は状況特殊的であり、状況を通じての一貫性はない、(b)状況における個人差は、原則的に内的属性よりも測定誤差に帰される、(c)観察された反応パターンは、状況に存在する刺激に因果的に結びつけられる、(d)そのような刺激-反応連鎖を発見する最適な方法は実験である。


 特性派と状況主義の論争を通じて、以下のことが示唆された。1.人間の行動には一貫性と状況による多様性の両方が存在する。2.行動の一貫性には個人差が存在する。3.ある状況は、他の状況よりも、パーソナリティの個人差の役割の大きさに影響を与える。パーソナリティの個人差は、高度に構造化された実験室研究では目立たないことが多く、個人が状況を選択し構成できる状況では現れやすい。4.行動の一貫性と可変性を示すデータの量は、どの立場で研究するか、どのようなパーソナリティ変数を考慮するか、そして速度に何を用いるかに依存する。また、単一の行動よりも一連の行動に個人差が明瞭に現れる。5.人間は、他者の行動と同様に、自分の行動を観察し、それを説明するための理論を構成する。因果帰属は、ある面では現実を反映しているが、パーソナリティ変数と状況変数に与える影響は単純ではない。


 とにかく、重要なのは、人間と状況の相互作用の恒常的なパターンを解明することである。そして、そこでは力動的アプローチが必要となるのである。